今でも時々、スウェーデンの雪深い森を思い出す

2015年、12月。初めてグローブ座というところへ足を踏み入れました。小瀧望くんの舞台「MORSE」を観に。
お芝居を観るのは初めてでしたが、それはそれはもうすごく色々なことを考えさせられて、今更ながら感想をまとめておこうという次第です。以下、個人的な感想というよりも、メモです。

オスカーという少年

主人公オスカーはまだ12歳、でも彼を取り巻く環境は劣悪。にもかかわらず、まっすぐで純粋で、普通ではないエリを普通に受け入れられたのはオスカーだから、だと思う。そしてエリがオスカーに正しい世界で生きるよう諭したのも頷ける。

エリとホーカン

ホーカンはオスカーと同じような歳からエリと行動を共にしていたらしい。自分だけが老い、衰えて、それとは逆にいつまでも美しいエリを見るのはどんな気持ちだっただろうか。ホーカンはただ、変わらないエリを変わらず愛し続けただけなのに。それは本当に異常なことなのだろうか。

オスカーとママ

ママは愛情多寡であるがゆえなのか、かなり歪んだ愛情をオスカーに向ける。
でも時折そんなママの愛情がチラチラと見え隠れするのがとても切ない。オスカーがパパのところへ行きたがっているという話を聞いて「あんたの父親」を「あんたのパパ」と言い直したのではないか。それはママの優しさではないだろうか。
オスカーが出て行くとき、オスカーはママに毛布を掛けるという唯一の優しを見せる。でもママはその優しさを見ていない。

観客

電車の音で始まり、電車の音で終わる、この舞台。それは私たちをあの世界へ連れて行き、送り返す合図なのではないだろうか。警察官はこちらへ向けて「みなさんのご協力感謝します」と言っていたし、私たち観客はあのとき確かに、あの世界に招き入れられていたと思う。


「約束して、そして、許して。」

劇中、幾度となく登場する「約束」という言葉。オスカーがママと交わす約束、些細な約束にも「約束は嫌い!!」と喚くエリ、オスカーとエリの約束。様々な場面で約束が登場する。
オスカーがママと交わす約束は自分を守るためだった。自分がまた外に出られるように、自分の身を守るための約束を受け入れるという形で結ぶ。でもエリとする約束はそうではない。またここで会おう、とか、ズルはしない、とか。一方通行の約束ではない。
ほんの些細な約束にも「約束は嫌い!!」と言ったエリが「オスカー、約束して。光を入れて、正しい世界を生きるの」とオスカーのために約束をする。
オスカーはエリの望む「正しい世界を生きる」という約束を破ったことで、エリとの「光を入れる」という約束を守り、エリは、オスカーとの「助けに行く」という約束を守った。2人の大きな変化を感じる場面。

そして、「許して」という言葉。許してという言葉を使うときってどんな時かな、と考えた時、約束を破った時だと思った。悪いことをした時、とも思ったけれど、許されたいと思う時、その悪いことというのは約束をしていなくても、何か相手の信用や期待を裏切った時なのではないか。「約束」と「許して」は繋がっている。
エリは何を許してほしかったのだろう。一緒にいられないことだろうか、それとも出会ってしまったことだろうか。2人が出会って、オスカーが少なからず、エリの考える「正しくない世界」に触れてしまったからなのだろうか。

少し、話はずれるけど「約束」はアイドルとファンの間でも絶えず結ばれているような気がする。私たちファンは彼らに、彼女たちに期待をする。その約束を背負い続けるアイドルはなんだかとてつもない存在のような気がしている。

オスカーとエリ

オスカーはエリを招き入れて生きていくことを決めた。エリはオスカーにとって光だから。
オスカーがエリと生きていくためには血を集めなければならない。そのためには…ホーカンと同じ運命を辿るようにも思えるけど、でも、自信はないけどそうは思えない。ホーカンはエリが「神様」だとすがりつく。それに対しオスカーはエリを何者でもないエリとして受け入れている。エリにとっておそらくホーカンは異常な存在で、オスカーは「正常」な存在。2人は決定的に違う。だから、最後のオスカーの満足そうな、幸せそうな笑顔に救われてもいいのかもしれない。


12歳の思いは、決意は、あまりにもまっすぐで眩しくて、切なかった。
光と闇、正しいことと正しくないこと、正常と異常、色々なものが交錯する世界に男でも女でも、大人でも子供でもないエリがやってくるのはなんだか不思議な感じだ。きっと世界は二分してなんか考えられない。エリがやってきてオスカーの世界はオスカーの秤をもって回り始めたんじゃないのかな。
私も自分の秤を持って、正しいものを招き入れて生きていきたいって思います。
オスカーは、エリは、私の記憶の中で何度も鮮やかに蘇って生き続けていくと思います。ありがとう、さようなら。オスカーとエリ。